【完】ファントム・ナイトⅡ -アノ日ト儚キ妃-
言えば、わかりやすく顔をしかめる彼。
だけどどこか、わからないとでも言いたげだった。わたしの考えを読もうとしているのかその瞳はじっとわたしを見据えているけれど、生憎、わたしだって伊達に社長令嬢はやってない。
「あなた、両親と関わる時間少ないんじゃない?」
「……海外飛び回ってる親だからね」
「だから……
両親に怒られたことなんてないでしょう?」
こわいと感じるのは事実。
だけどその距離をすっと詰めて、革張りのシートの上で、彼のネクタイをくっと引く。このネクタイにしてもスーツにしても、ブランド品なんだろうな。
「本当は、さみしいんじゃない?」
そもそもお見合い話を設けたくせに、両家の親が来ないってなんなんだ。
どちらも忙しいのはわかるけれど、仲介する人間ぐらい入れるべきだと思う。……だからこんなふうに誘拐されちゃってるんだし。
「さみしい? 俺が?」
「そう。だってミケって友だちいなさそうよね。
いつもまわりに一線置かれて、うわべだけの関係でも続けてるんじゃないの?」
「、」
「あなたの行ってる高校。
於実は受験して合格したけれど、内部組は幼稚園からエスカレーターになってるそうね。……そしてあなたは、その内部組のひとり」
有名進学校。
みんなから一目置かれるほどの進学校だけど、私立ってわけじゃないからお金持ちじゃなければ通えないってこともない。かなり頭のいい人なら、言ってしまえば誰でも入れる。
「親とはずっと離れて暮らしてる挙句に、まわりからは一目置かれてあなたはずっとひとりだった。
……だからそのさみしさを、退屈と称して暇つぶしをしてるだけよ」
そしてその暇つぶしは、良くはない方へ進んだ。
……良い方に暇つぶしをしようとすれば、この人にはなんでもできてしまうから。