【完】ファントム・ナイトⅡ -アノ日ト儚キ妃-
「……分かりきったようにものを言われるのは嫌いだ。
そもそも、もしそうだとしても何も関係な、」
「関係ない?
ならここまで攫ってきたわたしのことを解放してちょうだい」
「………」
「"関係ない小娘"は、さっさと解放して?」
チッ、と、ミケが表情を崩して舌打ちする。
そんな表情はめずらしいなと思いながらつかんでいたネクタイを離せば、彼は疲れたように背もたれに身を預けて、ため息をついた。
「たしかに親しい仲の人間はいないし。
万智だって、俺が暇つぶしを楽しんでる間は取引をやめないことを知ってるから、信頼してる」
でもそれは、言い換えればあなたを利用してるだけ。
それすらも承知で、ミケは彼と取引を行うなら。
「ねえ……わたしと取引しない?」
「なんのメリットがあって?」
「あなたの暇つぶしを……
さらに退屈から解放してあげる」
ゆるっと口角を上げて、ミケを誘(いざな)う。
そうすれば彼は「話だけは聞いてあげてもいい」と答えてくれた。……彼が、話のわかる人でよかった。
「あなたが彼にとって、"味方"でも"仲間"でもないのなら。
わたしと取引したって、裏切りにはならないもの」
「……意外と機転が利くお姫様だね」
くすっと笑みをこぼして、めずらしい称賛に「ありがとう」とお礼をひとつ。
到着した膨大な敷地を誇る砂渡邸に、さすがお金持ちだなと当たり前のことを思いながら、エスコートしてくれる彼の手に手を重ねた。