【完】ファントム・ナイトⅡ -アノ日ト儚キ妃-
ここぞとばかりに聞いてくる千瀬に「あはは」と乾いた笑みを向けたら、躊躇なくデコピンされた。痛い。
思わず額を押さえるわたしに痺れを切らして、手からするりとネックレスを抜き取った彼は「新しいチェーンに変えるしかないか」とのんきに独り言。
「で、何されたって?」
「……誘拐?」
「……ねえ、俺もう怒っていいよね?
ここまで耐えて聞いたけどもうキレていいよね?」
くるりと振り返ってみんなに尋ねる千瀬。
みんなに頷かれるとまずいと、千瀬が見ていないのをいいことにふるふると首を横に振ってアピールするけど。
「いいんじゃねーの?」
楽しそうに笑ったミヤケにそう言われて、撃沈。
もう二度と彼女に対する相談には乗ってやらないし、ノロケも聞いてあげない。こういう時だけあっさり手のひら返すなんてむかつく。
「で、でも……!
無事に帰ってこれたんだから、っ」
「そういうことじゃないでしょ。
もし無事に帰ってこれなかったら一体どうする気だったの」
「千瀬、」
「あの男の家金持ちなんでしょ?
もし家の地下にでも監禁とかされたら?無事に帰ってこれるっていう保証もないのに、どっから来んのその自信」
千瀬の中のミケのイメージって一体どうなってるの。
そんなひどい人じゃないのに。……ただ、愛情を知らないだけで。
「……たっぷりお仕置きされなきゃ、わかんない?」
ネックレスを自分のポケットにしまった千瀬がわたしの耳に流れた髪をかけながら、無駄に色気を出して聞いてくる。
えっ、と目を見張るわたしの顔がじわじわと熱を帯びるのを見た千瀬は、「何考えてんの」と冷たく言い放ったあと。