【完】ファントム・ナイトⅡ -アノ日ト儚キ妃-



ぱたんと閉まる扉と、いまだ動けないわたし。

そして部屋のソファに呑気に腰掛けた彼は、スマホをいじってるだけで、わたしのことは完全に放置だ。



なにこれ……

放置プレイという名の意地悪なの?



「ちーくん」



「………」



「ちーくん……放置しないで」



「……放置されたくなかったらさっさと動いてこっちまでおいでよ。

俺もお腹すいたしそろそろ帰りたいんだけど」



動けないのは誰のせいだと……!

たしかに最初の原因はわたしで、千瀬に文句を言える権利なんてないけど……!




「立てるようになったら抱きついてもいい?」



スマホの液晶を撫でていた手が止まって、ちらりとわたしを一瞥する千瀬。

「好きにすれば?」と冷たく返されたかと思えば、ポケットにそれをしまった千瀬がわたしの元へ歩み寄ってくる。



目線を合わせる千瀬が距離を縮めるから、ぱちぱちとまばたきすれば。

吐息が触れ合って、今度はきつく目を閉じる。



「……俺は抱きつかれるだけじゃ、足りないけど」



ゆっくり触れる気配と、触れた感触。

キスされてからその言葉を理解して、笑顔で「だいすき」と言うわたし。抱きついたらそのまま器用に抱っこして、ソファに座らせてくれるからやっぱり優しい。



「もうすぐ痺れもなおるでしょ。

……なおったら、あいつら席とってくれてるから飯行こ」



ね?と耳元で甘い吐息。

そんなところで甘くなくていいのに、甘やかされるのはやっぱりうれしくて。もう一度だいすきと言ってから、ぎゅっと抱きついた。



< 93 / 151 >

この作品をシェア

pagetop