※雨のしずく※
「すみません、保健室に行っていて遅れました」
先生に向かって頭を少し下げて謝る彼の姿に、一瞬の沈黙の中すぐに教室が騒ついた。
まあ、いきなり綺麗めの美青年が入ってくるわけで、女子たちのポカン顔は面白いものでした。
自分の席につき、「あ、じゃあついでに」と続けた。
「坂下 健 (さかした たける)です。
雨でベシャベシャになったので保健室で乾かしてました。
部活はバスケ部を予定してます。
よろしくお願いしますっ」
とニコッと笑う。
クラスの女子たちはその笑顔に射抜かれて、キャー!と赤面。
ふと、全体を見渡した彼と目が合う。
”見つけた”と、口を動かした気がした。
私に微笑みかけて席に座った。
ドキドキが止まらない。
な、なんだあの殺傷能力の高い笑顔はっ。
そんな事を考えていると前の席の唯斗くんが、
「こら、次お前の番!」
と机を指でコンコン、と教えてくれた。
ガタガタと音を立てながら慌てて立ち上がり、
「さ、さ佐久間 美優ですっ。
あ、あの、よろしくお願いしまふ!」
はい、噛んだ。
勢いよく言い放って勢いよく噛みました。
赤面しながら、すみません、と謝ると、唯斗くんが
「可愛すぎだからそゆのやめてくださーい」
なんてふざけたものだから、教室全体が笑いに包まれた。
彼も笑っていて、本当に恥ずかしかったけど、唯斗くんに救われた気がした。
坂下健くん、か。
同じ学校で、しかも同じクラスなんだ。
なんだろ、すっごい嬉しいっ。
席に腰を下ろして下を俯きながらニヤニヤが止まらない私に、唯斗くんが気持ち悪っ!と爆笑していたのは言うまでもない。