親愛なる背中へ
背中にチョコレート
高校の敷地の北側にある裏門。
敷地の中と外を隔てる緑色のフェンスが途切れて、人が一人通れるような幅だけが確保されているその通り道の狭間に。
今日も、いた。
その人は敷地の境界線の上に立って、フェンスの内側であるこちらに背を向けている。
日々黒板に向かって文字を連ねるとき、私達生徒に向けているその背中。
力強い達筆な文字をチョークで生み出しているときのそれはとても姿勢がよくて、見ているとふと自分の背中も伸びてしまうほどに綺麗だ思う。
目と目が合っているわけでもないのに、その背中を見ているだけで何だか彼自身の心が伝わってくるような、そんな背中なんだ。
でも今は気を抜いたように、普段は真っ直ぐ伸びているそれが緩んでいた。
だけど決して、だらけているとかそんなわけではなくて。リラックスして余計な力が抜けている、またいつもとは違う魅力を持った背中だ。
いつだってその背中には彼の心が表れているように思うけど、今の彼の背中の方が、彼の心がよりありのままに映し出されているような気がする。
頼もしくもあり、優しい一面もあって。その背中で語りかけてもらうと、不思議と安心感を得られる。
そんな背中を持つ彼だからこそ、ついていきたいと思うのだろう。
置いていかれないように必死に前を向いて、いつかその背中に追いつきたいって――。
ダークグレーのスーツに包まれた、肩幅が広く腰に向かってすっと細くなっている厚みのある背中。
それを相変わらずこちらに向けている彼は煙草を吸っている最中らしく、辺りにはその煙と匂いが漂っていた。
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