親愛なる背中へ
吸い込むたびに膨らんで、やがて煙と息が吐き出されるとともにもとに戻る背中。
教室では見ることがない、彼の背中のまた別の一面。この場所で目にすることがいつしか当たり前のことになって、もうどれくらいの月日が経ったのだろう。
……ああ、好きだなぁって。
その大きな背中に愛しい気持ちを抱くようになってから、どれだけ彼の背中を見つめてきただろう。
どれだけ、想い続けてきたのだろう。
数えきれないほど、幾度も目で追いかけて。そのたびに静かに想いを募らせてきた。
だけどそれも、もう終わる。私はフェンスの内側のこの場所で、もう彼の背中を追い続けることは出来ない。
いくらその背中を追い続けても、彼は振り返ることもなくずっと前を向いたままだった。
私が声をかけて無理矢理振り向かせれば、もちろん優しい彼はちゃんとそれに応えてくれる。
だけどそれでは、彼の心が映る背中は見えなくて。いくら正面で向き合っていたとしても、いつも彼がどんな想いで向き合ってくれているのかよく分からないままだった。
私の想いに気付いていないのか、気付いていながらも知らぬふりをしているのか。どちらが真実なのかも定かではないし、そもそもどちらも答えではないのかもしれない。
彼の背中は様々な場面で“生徒”には語りかけてくれるけど、恋い焦がれて見つめる“私”にはちっとも語りかけてくれない。
……それでも、追いかけることは諦められなかった。
追い続けることが出来る限り、その大好きな背中についていきたいと思っていた。
必死に追いかけて辿り着いたその背中を、後ろから抱き締めてみたかった。