親愛なる背中へ


山内先生はいつも放課後になると、この裏門のところに来て一服している。

高校の敷地内は喫煙禁止で、それゆえに裏門の敷地と外の境目というセーフなのかアウトなのかあやふやなこの場所で毎回吸うことにしているらしい。

先生はセーフだと思ってこの場所を選んだのだろうけど……。

たぶん、アウトだと思う。普通に敷地内に煙が入り込んでるから。


「あ、先生。身体が敷地内に入ってますよ。ダメじゃないですか、敷地内で喫煙したら」

「何を言ってるんだ中西。ちゃんと見ろ、半分は敷地の外に出てるだろ」


いや、半分だけではダメだと思いますけど……。

敷地と外との出入り口になっているフェンスの途切れ目。

そこを跨ぐように立っている自分の身体を、得意気な顔でアピールされてしまった。

もう、かける言葉も見つからない。


よほど私が冷めた瞳で先生のことを見つめていたのだろう。

先生は気まずそうに片方の眉を下げると、大人しく身体を完全にフェンスの外に移動させた。


先生が、2本目の煙草に手をつける。

私が見ている限りでの本数。きっと私が来る前に、もう1本ぐらい吸っていたに違いない。

そんなに、煙草が吸いたいのかなぁ。わざわざこんな場所に来てまで吸うほど。

どれだけ考えてみても、私にはその気持ちは理解出来そうにない。そしてやっぱり、吸うのはある程度控えておくべきだと思う。


……でも、先生が煙草を好きでいてくれてよかったとも思う。

だって先生が喫煙者で、この裏門の場所を喫煙場所に選んでくれなかったら。

私は先生と、この放課後の時間を共有することもなかっただろうから。


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