親愛なる背中へ


「……もうすぐ、2年か」

「……ん?」


すっかり見慣れた背中を見つめながらぽつりとこぼした私の呟きに、先生が小さく首を傾げながら上半身だけ振り返る。

学校の敷地の外にいる先生に近付くように、緑色のフェンスのそばによる。網目が私の瞳に映る先生の姿を遠ざけているようでもあり、それが私達の距離感をありありと示しているようにも思えた。

それに切なさを覚えながら、思い出話を口からこぼす。


「確か、山内先生がここで煙草を吸っているところを初めて見たのは、私が高2になった春でしたよね」

「そうだな。俺がこの学校に赴任してきた年だった。……もう、2年になるのか。春になれば」


先生が過去を懐かしむように頭上の青空を見上げる。私も薄い雲が少しだけ浮かんでいるそこに目を向けた。







私と先生がここで初めて会ったのは、今日みたいに寒い冬日を乗り越えた先の、穏やかな春のことだった。


私の自宅は、この高校の裏手の住宅街の一角にある。

だから登下校するときにわざわざ学校の周りをぐるりと歩いて正門を通るよりも、裏門から出入りした方が断然近いわけで。
入学したときからずっと、登下校の際にはこのひっそりと存在している狭い裏門を通っていた。

でもこの裏門、意外と穴場な近道だというのにあまり利用はされていないようで。いつも私ぐらいしか利用していないみたいだった。

狭くて暗い林道を通ることになるのが嫌なのか、同じ住宅街に住んでいる他の生徒達には人気がないみたいだ。


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