親愛なる背中へ
そんな先生の休憩タイムが終わるまでのその時間、いつしか私は裏門から帰ることなくそこに留まるようになって。
他愛ないお喋りをする、ちょっと親しい先生と生徒の関係を築くようになっていた。
……たぶん、もっと近くで見ていたくなったんだと思う。
「先生って、いい背中してますよね」
「ふはっ、いい背中って! そんな褒め方されたの初めてだよ」
授業やここで目にする先生の背中は、見れば見るほど魅力的だった。近くにいる今は、ついついじっと見つめてしまう。
すっと伸びた背中が愛しく思えて、ついつい本人の前でありのままに気持ちを吐露してしまったぐらいだ。
「言われませんか? 背中が綺麗だとか」
「ないよ、一度も。中西が初めてだよ、俺の背中をそんなふうに言ってくれたのは」
……そうなんだ。
授業中の真面目な背中も、煙草を吸っているときに様になっている立ち姿の背中も。
綺麗な逆三角形のその背中が見せる姿はどれも、不思議と引き付けられるような魅力を放っているというのに。
これに気付いていないなんて、みんな損してるんじゃないかな。先生だって宝の持腐れだ。
山内先生はくすくすと小さく笑いながら、私の正面に背中を向けた。おどけた様子で尋ねられる。
「何? 中西は背中フェチなわけ?」
「フェチかどうかはよく分からないけど……。先生の背中は素敵って思いますよ。力強くも見えて、でも優しい包容力もあるみたいな感じがして。なんだか、ついていきたくなるような感じで……」
冗談めかしているような先生の態度とは真逆の真面目な態度で、浮かんでくる言葉を声にする。