明日、僕と結婚しよう。
カラン、と音がした。
店に入った時と同じ、小さく可愛らしい音だ。
最後までにこにこと笑っていたおじさんの表情を頭に思い浮かべる。
おまけしてもらったキャラメルの口の中でほどける優しさ。
大丈夫。……きっと、忘れない。
「占いチョコのいちごミルク味って、私はじめて」
ちひろが袋に入れられた中をそっと覗きこむ。
タバコを意識したデザインのココア味の砂糖菓子、プラスチックの缶のプルタブを開けたら出てくるラムネ。
そして占いのできるチョコレート。
まるで錠剤のように一粒ずつ取り出し、◯や×といった結果で運勢が占えるものだ。
ねがいごと、かいもの、こくはく……いくつもの項目にどこから開けようかと悩んだことが懐かしい。
僕たちが知っているのはなんの変哲もないチョコレートの味に、鮮やかな色が踊っていたもの。
だけど今日買ったこれは、いちごミルクにぴったりなピンクと赤の2色をしている。
ちひろがチョコレートを押し出す。
掌にころんと乗せて結果を確認する。
嬉しそうに眉を下げ、口元を緩めて、彼女は僕を見上げた。
「二重丸だって」
「よかったね」
「うん。正人にあげる」
ちひろが食べなよ、と言うよりもはやく、彼女の指先が僕の唇に触れた。
わずかな隙間からそっとチョコレートを押しこまれ、思わず瞳を瞬く。
驚いている姿を柔らかな視線で包んで、彼女は幸せそうだと、思う。
「次はどれにしようかな」
僕の戸惑いなんて気にとめず、あっという間に普段通りに戻った彼女は真剣に選んでいる。
その指先のたどる先。
ひとつだけ空いた穴の、その項目。
『りょこう』
書かれてあった文字に僕は、なんと言えばいいかわからず、ただ口の中のチョコレートに歯を立てた。
外はほんのわずかにカリッとして、中はとても、とても甘かった。
────今日は、君と僕の大切な1日。
これから先、なにがあっても、支えになるような特別な時間。
明日のための、婚前旅行。