明日、僕と結婚しよう。
あのあと、チョコレートをつまんだせいでなんだかおなかが空いてきた僕たちは、近所のパン屋さんに向かった。
ちひろはふわふわのクリームパン、僕は出来たてのカレーパン。
あそこは店の前にベンチが設置されていて、気軽に買ったばかりのものを食べることができるんだ。
とろっとしているクリームが彼女の口の端につき、指摘すると赤い舌がそれをぺろりとぬぐった。
昔と変わらない幼い行動のはずが、そうは見えないことに胸がほんの少しざわめいた。
口の中にパンを押しこんで、飲み干したパックのりんごジュースをつぶしてゴミ箱に放りこむ。
昼食を終えれば目的地を目指してまっすぐに歩いた。
そうして着いたのが、ここ。
僕たちの住んでいた街の市役所だ。
生活する上で必要な書類を提出する場所であるここはもちろんどこにあるかよく知っていた。
だけどそういうことは、親がしてくれていた。
ひとり暮らしをしているわけでなし、甘えてしまうのは不思議なことではないんだけど。
だけどそれが理由で、高校生という身である僕たちは市役所に訪れたことがない。
隣接している図書館なら、何度も利用したことがあるのにね。
幼い頃の眠る前の絵本、小学校の自由研究、中学校の受験勉強。
成長とともに必要としていた本は変わったけど、それでもとても身近な場所だった。