明日、僕と結婚しよう。
だってどこにあるかわからないし、ちひろにとってはさっさとここを離れられる方が重要かと思って。
でも、そうか、恥ずかしかったんだ。
わりと淡白で感情を揺らがすことなんてない僕には、〝恥ずかしい〟なんてあまり縁のない感覚だ。
たいていのことはそうなんだ、仕方がないね、と言ってしまう。
違った反応を引き出されるのは、ほとんどがちひろのこと。
思えば思うほど、僕の中のちひろは大きい。
ちひろのことばかりなんだと実感する。
だけど彼女は違う。
なんだって隠してしまいがちなだけで、その心はとても豊かだ。
悲しいこと、嬉しいこと、きちんと心は動いている。
唇を噛み締めて、目尻に力を入れて。
そんな必要がない環境を僕は作ってあげられなかったけれど、でもきっと大丈夫。
これからは、新しくはじまる。
彼女はやりなおすことができるから。
「正人……?」
黙りこんだ僕を見て、ちひろの瞳が揺れる。
眉間にしわが刻まれて、誤魔化しきれない不安を見つけて、僕はなんでもないよと言うように口角を上げる。
その笑みを深めて、いたずら心を出してみる。
「恥ずかしいってさ、ちひろ、照れていたの?」
「……だったらなに」
「うん。可愛いなぁって」
適当なことをとぼやいて、まるで本気にしてくれない。
だけど僕は本気だよ?
ちひろは可愛い。世界で1番、誰にも負けない。
僕の人生で彼女を超える存在はいない。