明日、僕と結婚しよう。
外に足を踏み出せば、市役所の中はどれほど暖房が効いていたかを感じる。
そこまでじゃないと思っていたけど、思っていたより設定温度は高かったんだろう。
だけどあの息苦しさは、胸に渦巻くもやもやとした気持ち悪さは、暖房のせいだけではなかった。
深く息を吸う。
ゆっくりと吐き出して、黙りこんだままのちひろの姿をちらりと確認する。
歩きにくいだろうに、それでも腕をワンピースの上からぎゅっと押さえている。
そこに隠された傷痕を思い、太陽の眩しさに視界がわずかに霞んだ。
「腕、痛い?」
「ううん、平気。あれからしばらく経ったし、もう新しい傷は増えてないもの」
「そっか、よかった」
前回ちひろを土手の橋の下まで迎えに行って以来、彼女が怪我を負うことがなかったことに安心する。
確かあれからずっと、今日まで準備をしている間、1度だって顔を見ていないと。
もう2度とないと、言っていた。
それは真実だったんだ。
「すぐによくなる。
ちひろは半袖も似合うと思うよ」
「ありがとう」
「でも変な虫がついたりしないよう、あんまり男に肌を見せることがないようにね」
「……見せませんから」
彼女の答えに息をもらした。
これからは暗い顔を見ることもなくなる。
なくなるから、大丈夫だね。
さっきまで眩しくて仕方がなかった太陽よりずっと、隣に立つ、不安定で強がりな彼女が輝いているように思えた。
僕はそっと目を細めた。