明日、僕と結婚しよう。




靴を脱いで上がることができるマットを敷いてあるスペースは、ぺたんと座りこむことができて子どもと保護者だけの空間。

まるで見えない壁があるかのように僕たちは踏み入れることのできない領域で、だけどそこに昔は僕たちもいたことを思い出す。



それはまさに、さっきのふたりのよう。

同じ絵本をふたりの目の前に広げて、頭がぶつかりそうな距離でのぞきこむ。

次のページにいっていい、もうちょっと待って、なんてそんなやりとりをしたり。



「僕たちもあそこで読んでたよね」

「うん」

「お兄ちゃんぶってちひろに読み聞かせをしてあげたこともあったなぁ」

「そういえば。懐かしいね」

「ね。懐かしい」



ほろほろと崩れる砂糖菓子のよう。

濃い甘さが広がるのに、形を留めておくことはできずに胸にしみていく。



言葉を落としながら、ふたりそろって空に広がる雲と見つめあう。

綿菓子をちぎったかのように細く、薄い白が伸びている。



雲にも名前はあるけれど、今日の雲はいったいなんという名前をしているんだろう。

それとも、名なしなのかな。



形があるように見えてそうでない曖昧さは、人と人の関係に似ている。

繋がりはもろく、かんたんに断ち切れて、近いものを感じても遠い。



「あの子たちはさ、兄妹なのかな」

「さぁ……」



それとも、僕たちと同じように、幼馴染だったりするんだろうか。






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