明日、僕と結婚しよう。
幼い時から馴染みのある人。
他の人より知っていることがたくさんある人。
多くの時間を過ごしてきた人。
だけど同じ未来があるとは限らない。
そんな、相手。
あの子たちがどうなるかなんてわからないけど、きっと僕たちと似たような道を歩むことはないだろう。
ちらりと腕時計で時間を確認する。
夕方の5時を回ったところ。
昔なら家に帰っておいでと言われていた時間は、僕たちにとってまだはやい時間帯。
〝もう〟5時じゃなくて、〝ただの〟5時になって。
だけど、今日は特別な日だから、2度とない1日だから。
〝まだ来なくてよかった〟5時だ。
でも来てしまったものは仕方がない。
規則正しく刻まれた時間は惜しんでも戻っては来ないんだから。
無駄になんかしないで、次の場所に向かうしかない。
立ち上がり、ちひろが飲み干した缶を受け取る。
ごみ箱に放りこんで、よし、と小さく声に出す。
「ありがとう」
「いいえ。じゃあ、行こうか」
子どもじゃない時間に、子どもの場所へ。
にっこりと笑って、僕はちひろの顔をのぞきこんだ。
彼女はまばたきのように瞳を伏せて、こくりと小さく頷いた。