明日、僕と結婚しよう。
常にのどの奥になにかが引っかかっているようで、だけどぎりぎりまで追いつめられているわけでもない。
緩く、だけど確かに、真綿で首を絞められているよう。
精神的なものか、身体的なものか。
きっとふたつともの要因から、息苦しさを感じてさらに浅い呼吸をしていた。
すると、熱くなった掌の中にするりと冷たいものが触れた。
「ちひろ……?」
彼女の細い指が、僕の指に絡む。
幼い頃と同じようで、指先だけを引っかけるように緩い繋ぎ方。
こめられていない力はわざと抜かれていると、わかる。
だって僕から繋いだとしても、同じようにするから。
そんなかすかな触れあいに対する言葉はなにもない。
でもそれならそれで、いい。
胸に広がる感情を噛み締めるだけだ。
ゆっくりと上げた足を下ろす。
すぐそばではちひろの白いワンピースのすそがひらりひらりと踊っていた。
気の向くままに言葉を口にしていく。
「ちひろのおじいさんの家は、確かここより田舎なんだよね?」
「……うん」
「あっちじゃあ、運動不足にはならなさそうだ」
ここも都会とは言えないけど、田舎というほどでもない。
微々たる違いのようで、きっと同じことは少ないだろう。
これも、これも、とひとつずつ数えるように、目についてしまうだろう。
空の色、風の流れ、気温の高さ、街並み、道のり。
そしてなにより、そこに住む人。
僕の呟きのような言葉が拾われることはない。
そのまま、坂道の途中に置いて来た。
そして、ようやくたどり着く。
今日の婚前旅行で巡る中で1番思い出深い場所……高台の公園だ。
「綺麗……」
オレンジ色の、それはまるでゆらゆらと涙の膜のように。
僕たちが未来を誓う場所は、揺れる夕日に照らされていた。