明日、僕と結婚しよう。




ブランコや砂場なんかの定番の遊具がぽつぽつと設置されている公園。

小さな山のようなデザインのすべり台の下には、穴が空いていて通り抜けができるようになっている。



ここには昔、膝を抱えたちひろがいた。

家に帰りたくない、だけど雨が降っている。

そんな時には土手に行くのは危険だからとすべり台の下に身を隠していた、そんな頃を思い出す。



すっかり身体の大きくなってしまった今では、なかなか狭いのだろう。

そう思い、視線をすべり台から隣に座るちひろへと向ける。



木製のテーブルとベンチは、硬くて座り心地がいいとは言えないけど、多くの人に触れられて表面はずいぶんなめらかだ。

ここでお弁当を食べたり、昔は僕たちに着いて来ていた母親たちが座っていたところに腰を据えて。

僕とちひろの目の前には、婚姻届が広げられている。



薄っぺらなそれは、さっき見た時と変わらない黒い字で印刷されている。

だけど地は花嫁の色をしていて、夕日の光を吸いこんでオレンジ色に輝く。

僕は黙って、手を伸ばした。



黙々と、なにかを思うこともなく、ただ文字を刻む。

名前、ふりがな、生年月日。

必要事項を消さないように、ボールペンのインクが染みこむように。



書き終えたところで、ちひろの方へとそれをすべらせる。






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