明日、僕と結婚しよう。
「信じてなんて、そんな酷なことは言えない。
だけど、これから先、長い間。
会えないけど、繋がっているよ」
「繋がっている……」
「うん。提出することがなくたって、この婚姻届は僕たちの関係の証だ」
僕たちの間には恋人なんて、甘い関わりはない。
家が隣の、……隣だった。ただの幼馴染。
言葉にしてしまえばとても浅いけれど、僕たちは。
お互いを誰よりも、世界で1番、大切に想っている。
曖昧なまま、ここには確かに愛があった。
ちひろの手を離す。
彼女の髪をすくって、その柔らかさを噛み締めてから耳にかけた。
「隣からいなくなるのに結婚しようなんておままごと、いい年したふたりがしたけど」
頰に、指先をすべらせた。
両手の中で、彼女は唇を噛み締める。
「本当の結婚なんて縛りがなくてもきっと、ねぇ、大丈夫だよ。大丈夫にしようよ」
こわくても、さみしくても、君とならって思うんだ。
きっと、きっと、どうか。
今は形に残るものを得られなくても、明日はどうなるかわからないから。
「いつになるかわからないけど、僕はちひろを迎えに行くよ。その時にはこの婚姻届を一緒に出そう」
唇の端を上げて、僕は笑う。
吐息にそっと想いを忍ばせて、願いをこめる。
「うん、……うん」
そして静かにそっと、彼女の頰には涙が流れた。
僕の指先は優しく濡れた。
ああ、……やっと。
僕は君の涙をぬぐうことができたね。