明日、僕と結婚しよう。
「私、正人のこと待っているから。
ずっとずっと、信じているから」
「……っ」
どんな思いでちひろは今の言葉を口にしたのか。
確かなものなどなくて、不安で、迷子の子どものように泣きそうなはずなのに。
そんな中でわずかな僕の言葉をなくさないようにと掌の中に優しく包みこんで、信じようとしてくれる。
僕の望むものを彼女に与えて欲しかったわけではないけど、それでも彼女のその心に。
信じると言ってくれた想いに、どうしようもなく安心した。
ちひろに言われて、やっと口にできるなんて本当に情けないね。僕はばかだね。
だけど、ようやく乞うことができる。
「うん、信じていて」
引っ越した先で、今を生きて。
毎日笑って、僕がいなくても幸せに。
だけど、わがままでごめんね。
……どうか忘れないで。
「必ず迎えに行くよ」
この街とは違う、だけど君がいるところへ。
僕はどこへだって戻って来る。
どんなに遠いところへ行ったって、君の元へ、帰って来るよ。
「だって僕は、明日を、生きるから」
君のために、僕のために。
自分の身体に負けてなんていられない。
不安なんて吹き飛ばして、僕は強くありたいから、きっとなってみせる。
心に星が、ことんと落ちる。
ちひろの言葉が瞬いて、僕の胸で息をしている。
「僕の不便な身体、手術が成功したってどこまでよくなるかわからない。だけど、ちひろに僕と生きて欲しい」
言葉が見つからないなんて、言うことがないなんて、ああ、僕はなんて救いようがない男なんだろう。
大事なことが、なによりも告げなければいけないことが、あるじゃないか。