明日、僕と結婚しよう。
どくどくとうるさい心臓には気づかないふりをして、息を吸う。
明日はいつか今日になって。
その今日の明日、またその次と、続いた日々の先で、どうか。
────どうか。
「いつか訪れる明日を、ともに迎えて。
その時には、結婚しよう」
「っ、」
「ちひろ。……僕と、結婚してください」
神に、想いに。
「なにかにかけて」と口にすることはかんたんだけど、引き換えにできるものになんてない。
だけどこれはうそじゃない。
18歳の、なにも持っていない僕の、今の精一杯の約束。
これはまだ遠い明日、必ず訪れる明日の誓いだ。
深く深く、ちひろが息を吸う。
彼女の瞳の中で僕の姿がゆらりと潤んだ。
何度も深呼吸を繰り返して、涙声を呑み、ちひろはたどたどしくなりつつも、唇を綻ばせて。
「────喜んで」
その言葉を聞いた瞬間、僕は空いている片手をちひろの後頭部に伸ばした。
髪をすくように撫でて、軽やかな黒髪の間に空気を触れさせる。
確かめるように毛先をつまんで、肩、肩甲骨とすべらせ、そして腰を抱き寄せた。
ちひろの手から力が抜けたことを感じ、もう片方の手も彼女を抱き締めるために使う。
ちひろを僕の身体ぜんぶでつかまえて、包みこんで、ぬくもりを感じた。
彼女が僕の背中のシャツをつかんだ感覚に、ふっと息をもらす。
僕とちひろの白が、夜の黒にとけた。
また明日ねと、ふたり笑った。
fin.