明日、僕と結婚しよう。
僕の言葉を聞いたちひろは、決して「本気?」なんて否定する言葉を口にしない。
そんな野暮なこと。
僕たちの間には必要ないんだ。
だって、わかる。
どんな気持ちで僕がその言葉を口にしたか、それを聞いたちひろがどんなふうに思ったか。
僕たちはなんとなくだけど、わかるんだ。
そっとまぶたを下ろし、また開く。
噛み締めるようにちひろは言葉を口内で転がした。
「うん。……うん、そうだね。
正人と結婚、したい」
こくりとちひろが確かに頷いたのを見て、僕は頰を綻ばせる。
答えは分かっていたけれど、それでもプロポーズを受け入れてもらうことは嬉しい。
彼女の手を自分のそれで包みこむ。
そのまま立ち上がり、彼女を引っ張り上げた。
「わぁっ」
驚いてまばたきをするちひろに向けてにっこりと笑う。
さっきまで歪んだ表情をしていたはずの彼女の丸い瞳に映る自分が幸せそうで、それにまた笑えてくる。
「じゃあ、今日は婚前旅行をしよう」
最初からプロポーズをするつもりをしていた僕は、白いシャツにパンツ、普段履きにはできない革靴を身につけている。
それに対し、ちひろも白いコットンワンピースに踵の低いパンプス。
図らずもふたりして結婚を意識したような服装になっている。
今日は結婚式本番じゃないけど、だけど、生涯を誓うにはぴったりだ。