明日、僕と結婚しよう。
「わぁ……」
隣から聞こえる声にはっとする。
気づけば目の前には目的地。
懐かしい駄菓子屋に、ちひろは瞳をきらきらと輝かせて無邪気な表情をしている。
口元に浮かんだかすかな微笑みに僕は胸がふんわりと柔らかな毛布で包みこまれたかのように優しい気持ちになった。
引き戸と扉のふたつの出入り口があるそこは、少し古くなってはげたペンキのかすれが目立つ。
だけどクリーム色と木の色が混ざりあって、優しい印象を受ける。
扉を開ければカラン、という久しぶりに耳にする鈴の音がした。
中に足を踏み入れれば、思わず目を丸くする。
店内のレイアウトが変わっていたんだ。
「……ちょっと狭くなったね」
「うん。文具コーナーも減っているし」
奥まったところまで駄菓子が置いてあったはずが、本来あったスペースが壁で埋められている。
小学生向けの鉛筆やノート、下敷きに筆箱と多くのものがあったはずなのに、ずいぶんこじんまりとしている。
「なんか、さみしいね」
ちひろが1歩2歩と先に進み、店内を見回しながらすっと目を細める。
さっきまでの明るい様子とは違い、切なげな姿にかける言葉を持っていない僕は、ただ彼女を奥へと促した。
「いらっしゃい」
目尻にしわを刻んで、笑ってくれるおじさんと目があった。
今日の店番はどうやらおじさんらしい。
昔のようにタメ口でなんて話せるはずもなく、会釈で応えると、おじさんの対応が昔親に向けられていたものに近いことに気づく。
なんてしょっぱい、大人扱い。
あの頃とは変わってしまったこと、変わっていないこと、たくさん入り混じっているんだろう。
だけどなんだかさみしいなぁと思ってしまう。
おじさんは僕が僕だと、きっと、わかっていない。