好きだなんて言ってあげない
何かを壊して、取り返しのつかないことをしてしまったような気がする。
専務の視線の先にいるのはこまり。
小さくて、お人好しで、女の子らしくて、守ってあげたくなるような
わたしとは真逆の。
別れた恋人を密かに未だ想い続ける一途なこまり。
日本にいない元カレなんて無視して、専務がこまりにつけこんだりしないのは、元カレが自分の親友だから。
心の隙間に入り込んで、優しさを利用して、自分のことを優先して、辛いから、悲しいから、誰かに側にいて欲しかったから、やるせなさを埋めるために専務を利用してしまった。
もう、元の気軽に一緒に飲みに行くような関係には戻れない。
仕事を終えて、地下鉄に乗りホテルに向かう。
ホテルのロビーに着くと、仕立ての良さが一目で分かるグレイのスーツ姿の専務が直ぐに目に入る。
腕時計を見ると約束の時間の5分前。
二重瞼に長い睫毛、細面でどこか女性的なのに、長身で均整の取れた体格がちゃんと魅力的な男性に見せていた。