好きだなんて言ってあげない


こまりが目に見えて元気を取り戻す。

こっそり帰国して、睡眠不足なこまりを強いお酒で前後不覚にして、何をしたのか野波さんはこまりをたった一晩で立ち直らせた。

どんなに近くにいてもわたしにも専務にも出来なかったのに。

同じフロアの後方にいるわたしと窓口のこまりとは少し距離があるのに、以前のように屈託のない笑顔で接客をするこまりの明るい気配を感じる。



良かった。



書類を取りに席を立ち書庫へ行くと、後ろから声をかけられた。

「なんだ、山岸か」

「すいませんね、イケメンやなくて」

「何?なんか不機嫌?」

「今晩時間取ってもらえます?専務にも今朝連絡して了解取ってます」

「・・・・・?ええけど」

こまりとよく行く居酒屋の名前をあげて、19時待ち合わせを約束して山岸が慌ただしく去って行った。いつも穏やかな山岸にしては剣呑な気配をまとわせて。


なんやの、アイツ。
失恋でもしたんやろか。

仕事がそこそこ忙しくて待ち合わせ時間の10分前になんとか終わらせた。更衣室で着替える前に少し遅れると山岸にメッセージを送る。
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