好きだなんて言ってあげない
事情が分からない専務に簡単に説明する。
「別れへんのやったら野波さんなんかどうでもいい、アメリカ行きがダメになったって知らないって」
こまりーーーーーー!
全てが頭の中で繋がった。
スキャンダルを嫌う銀行で、一度不名誉な噂がたってしまえば野波さんの将来が潰れてしまう、自分が彼の未来を閉ざすわけにはいかない。ましてや留学が決まりそうなこのタイミングで。
だからこまりは誰にも黙って身を引いたのだ。野波さんやわたしに話せば矢口を責めたてるに決まっている、そんなことになれば矢口がどんな報復に出るか分からないーーーー。
「木下さん、突き飛ばされて転んでて、膝を酷く打ち付けてはって・・・・・わたしに誰にも言わないでって口止めして・・・・・」
傍らのバッグを掴み、部屋を出ようと立ち上がると腕を強く引かれた。
「亜弥!どこに行くつもりや!?」
「殴りに行くのよ!こまりができないならわたしが矢口を殴ってやる!」
「止めとけ」
「なんで止めるの!?こまりのこと一番近くで見てきたやない!あんまりやない!理不尽やない!あの子は何にも悪くない、野波さんが好きで、野波さんだけが大好きで!!」