好きだなんて言ってあげない
上司に事情を話し、さっき着替えたばかりの制服を脱いで銀行を出ようとしたところでスマホが鳴った。
『亜弥?』
初めて一緒に飲んだ日からコイツはわたしを呼び捨てだ。
「おはようございます、専務。ひょっとしてこまりのこと?」
『聞いたか?オレ、今から小娘のとこ向かうけどお前は?』
「わたしも今から。銀行を出たとこです」
『5分後、大通りの銀行の向かい側のカフェの前。車で拾ってやる』
「はい。ありがとうございます」
スマホをバッグにしまい、足を早める。
助かった。一度家に寄って喪服を取ってこないとと思っていたから、車なら電車の乗り換えの煩わしさもない。
しかし、専務はどこから聞いたんだ?
カフェの前に着くと、黒い高級車が滑り込んできた。
「亜弥!」
さすがおぼっちゃま。
いい車にお乗りで。
助手席に乗り込むとすぐに発進する。
「小娘、霊安室で茫然自失らしい」
挨拶もそこそこに専務が口を開いた。
こまりの様子が目に浮かび、心が痛む。