素直の向こうがわ【after story】



二人でいる時、衝動的にあいつが欲しくてたまらなくなる時があった。
でも、やっぱりそれは出来なかった。


合格するまでは――。


それが俺なりのケジメだった。でも、それは意気地のない俺の言い訳だったかもしれない。

この一年、ほんの数回触れるだけのキスをしただけだ。
それ以上してしまったら、きっと止められなくなる。

俺のそんな気持ちに、松本がどんな思いで付き合っていたのかは分からない。
本当は、どんな葛藤を抱えながら俺の傍で笑っていてくれたのかは分からない。


だから、合格発表のこの日、松本の涙を見た時、松本には松本の思いがあったことを改めて知った。

俺と同じくらい、もしかしたら俺以上に、不安を抱え続けていたかもしれない。
言葉にはしなくても、ずっと心の底でその不安と闘っていたのかもしれない。


この一年で降り積もった俺の松本への想いは、感謝の気持ちとともに溢れ出す――。




「ちょっと、徹。何ぼーっとしてるの。さっさと座って」


母さんの声に我に帰る。


「すごいお料理だよ。早く早く」


そんな母さんの隣に立つ松本が俺に笑顔を向ける。


「ごめんごめん」


俺は皆が待つ食卓へと向かった。

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