素直の向こうがわ【after story】
今年の桜は開花が早かった分、散ってしまうのも早い。
まだ四月になったばかりだと言うのに、満開を過ぎている。
「今年もやってきましたね、この季節が」
朝の会議を終え自分の席に戻ると、後輩の女の子が目を輝かせて私に声を掛けて来た。
「何の季節?」
さきほどの会議で議題に上がった件の資料をどう揃えるかを頭で考えながら、隣の席に座る後輩の声に耳を傾ける。
「新しく研修医が入って来るじゃないですか。将来有望なお方を見初めるの、楽しくないですか?」
この子は毎年そんなことを言って、この時期になると騒ぎ出す。
私の職場である病院内の管理栄養部の職員は、ほとんどが女性だ。
だから、彼女にとって楽しみ半分本気半分というところなのだろう。
「毎年そう言って、全然何も起きてないじゃないの」
資料を分野別に振り分けながら呆れたように呟いた。
「そう簡単なことではないんです。ああ、誰か研修医と管理栄養部との合コンセッティングしてくれないかな」
「もう分かったから、さっき言ってた資料早めにコピーしといて。そろそろ献立の打ち合わせもあるんだから」
それでもまだぶつぶつという彼女に資料を差し出した。
「松本さん、自分は恋人がいるからって。私だってもう25になっちゃうっていうのに恋もしてなくて焦ってるんですから」
彼女は諦めて席を立った。
そして、私は溜息をつく。