素直の向こうがわ【after story】





「今日は、私までお邪魔させていただいてありがとうございました。久しぶりに皆さんに会えて楽しかったです」


玄関先で、松本を見送りに来た家族に頭を下げる。


「こちらこそ楽しかった。また遊びに来てね。待ってるわ」

「絶対だぞ。またすぐ遊びに来いよな」


この数時間でもう慣れたのか、渉はすっかり松本と以前のように接していた。


「うん。また来るね」


笑いかけてもらった渉は嬉しそうに松本を見上げる。


「文子さんはうちの男たちから大人気だな。そこは、さすが兄弟ってところか」

「僕は別に、松本さんの料理の腕を尊敬しているだけで……」

「それだって、十分『人気』のうちに入るだろ」

「……」


父さんが今度は崇相手に勝手に一人で笑っている。
そんな騒がしい家族からの次から次へと飛び交う言葉から、やっとのことで松本を外に連れ出した。

どれだけみんな松本のことが好きなんだ。



「本当に、今日は楽しかった。嬉しかったからこそだよね。改めまして、合格おめでとう」


急に訪れた静けさの中、隣を歩く松本が顔を上げた。


「こっちこそ、ありがと。それで、サプライズってわけには行かないけど、何かしたいこととか行きたいところとかあるか? これで俺もやっと解放されたから」


これまで何も出来なかった分、二人で過ごしたい。
ここは松本の要望を叶えてやりたい。


「うん……。それなら、一つある」


少し俯いてぼそぼそと呟く松本を、不思議に思いながら見つめた。


「うん。なに?」

「今度は、私の家で二人だけで合格祝いしたい」


さらに声を小さくさせて松本が呟いた。


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