素直の向こうがわ【after story】
「……え? 合格祝いって、今日やっただろ? またやるの?」
顔を上げようとしない松本の顔を覗き見る。
「そうなんだけど、今度は私がいろいろお祝いしたくて。料理作って、二人だけで改めてお祝いしたい。だめ、かな……?」
おそるおそる顔を上げて松本は俺に問い掛けた。
「だめなんてことはないよ。でも、それじゃあ、全然文子へのお返しにならないなって。それって結局俺のためにやるんだろ?」
「でも、私にとって本当に嬉しいことだから。それが私のやりたいことでもある。ずっとこの日を待ち望んでたから……」
「そうか。じゃあ、また祝ってもらおうかな」
その目の強さに、俺も思わず頷いてしまっていた。
「ほんと? 良かった。もうね、実はメニューとか決めてあるんだ」
嬉しそうに顔を綻ばすものだから、それが松本の願いなんだと分かる。
「なんだか、凄いのが出て来そうだな」
「見る前からそんなこと言わないでよ。プレッシャーになるでしょ」
ぷっと怒って見せるその顔にも、つい表情が緩む。
「おまえの作る料理なら、なんでも嬉しいよ」
この一年で、これくらいのことなら普通に言えるようになった。
そして呼び方も、『松本』から『文子』って名前で呼べるようになったし。
これからは、出来るだけ一緒にいたい。
思う存分二人で過ごしたい。
見上げた夜空にはいくつもの星が光っていた。
―待ち続けた日 終―