素直の向こうがわ【after story】
「え? まだ、してないの?」
先月、久しぶりに真里菜と薫の三人で夕飯を食べた時のこと。
「だから、何よ」
二人の、あからさまに驚きを露わにした表情にムッとした。
「え? だって、今何月だったっけ?」
「二月だよ? マジ? いや、だって二人が復活してそろそろ一年じゃない?」
薫と真里菜が2人で顔を見合わせながら勝手にわめきたてている。
私は、そんな二人を無視してフォークにパスタを絡ませた。
「そういうのに付き合ってる期間とか関係ないよね。人それぞれでしょ」
うるさい二人にそう言い放つ。
女子大生が三時間も喋り続けていれば、たいていこういう話になる。
「まあ、そうかもしれないけど、でも、一年でしょ? 自然とそういう雰囲気になって来たりしないの?」
それでも納得できないのか、真里菜がダメ押しみたいに言って来る。
「別に、そんなのなくてもいいし。それに河野は勉強第一で頑張ってるの。そういうことしてる場合じゃないんだよ」
私の声もだんだんトーンダウンしてきているのに気付く。
でも、くじけそうな自分を奮い立たせるようにまだ強気の発言をした。
「そうだよね。河野は真面目な男だし、そういうのちゃんと順番とか考えてそうだよね。『合格するまでは』みたいな? あれなんだっけ、そうそう、『ほしがりません、勝つまでは』的な感じでさ」
薫のフォローに真里菜が笑う。
「やだー、薫上手いな。そっか、そうだよね。河野はそういう男だった。と言うことはつまり、合格発表の後はいよいよ……ってことですね? 文子さん」
上目遣いでまりなに見られて、私は河野とのあんなことやこんなことを想像してしまい不覚にも顔が赤くなってしまった。