素直の向こうがわ【after story】
「べ、別に、そういうのは自然な流れに任せるものであって、そういうこと期待するのはどうかと……」
私は心のうちを見透かされたくなくて、俯いた。
「でも、二人は付き合っているんだし期待したって悪いことじゃないでしょ? 本当に好きな人とならそうなりたいと思うのが自然だよ」
薫に微笑まれて、私はますますいたたまれなくなる。
高校を卒業してからも、私たち三人はそれぞれ別の大学にも関わらず数か月に一回はこうやって会っていた。
大学でも友人は出来たけれど、やっぱり心置きなく語り合えるのはこの三人で。
河野のことも知っているから余計に気を許せた。
でも、何故かこの日は自分の本心をこの二人に話せないでいた。
『本当に好きな人とならそうなりたいと思うのが自然だよ』
薫の言葉を、帰り一人になって何度も反芻していた。
そうだよ。私だって本当は、それを願ってる。
でも、そんなことを考える自分が嫌だった。
真剣に合格だけを目指して頑張っている河野に、そんな欲求を持つこと自体が間違っている気がした。だから、二人でいてたまにふっとそんな願望が過ると精一杯押しやって来たし追いやれた。
それなのに――。
薫と真里菜のせいで、意識したくなくても意識してしまって、変な緊張が増えてしまったのだ。
本当に、いい加減にしてほしい。
この一年、河野と二人きりになったことは何度かあったけど、それらしい雰囲気になったことはない。
それは、以前の河野のままだ。
ほんのたまに触れるだけのキスをしただけ。
それも本当に数える程度。
それはいつも穏やかな雰囲気の中で、どこか私を慰めるような感じのもので。
別にそれが嫌なわけじゃない。
それだけでも十分に幸せだった。
だけど、受験勉強からも解放された後もずっとこのままだったら、果たして私は同じ気持ちでいられるのだろうか。
そう思うと、何より自分が不安になる。