素直の向こうがわ【after story】



『おまえは淫乱だから』


かつて、付き合っていた男から言われた言葉。
実は、あの言葉は私の中にずっと棘として残っていて。

少しでも河野との進展した関係性を求めてしまいそうになると、すぐにその言葉が思い出された。

こんな風に河野に近付きたいと思ってしまうのは、私が『そういう女』だからなのかなって。

そう思うと怖くて、すぐにそんな感情は打ち消して来た。


だけど、二人にあんな風に言われて、今日だけはどうしても意識してしまう。


受験も終わって、私の家で二人きり。
私の両親はこの日帰って来ない。


ベッドから這い出て、服を着替える。
無意識のうちに女らしい服を選んでいた。
滅多に着ることのない薄水色のワンピース。

昨日の夜だって、いつもより長湯になっていた。

でも、そんな自分には気付かないことにする。



髪を一つにまとめて、キッチンに立つ。
手際よく料理の下ごしらえからこなしていく。

前の晩から準備は始めていた。


ローストビーフにいくつもの野菜を裏ごしたスープ、彩野菜のサラダ、ほうれん草とチーズのキッシュ、サーモンのマリネ、そして手作りパン。

気合い入れ過ぎかとも思ったけど、それだけ私の嬉しいという気持ちは大きくて。
河野がどん引いてしまわないことだけを祈って、ひたすらに準備をした。

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