素直の向こうがわ【after story】
「……私ばっかり、徹に近付きたいって……、もっとくっつきたかったとか、……そんなこと考えてて、私ばっかり徹のことが好きで、そんな自分が惨めで……。ただ、それだけだよ。こんなこと言わせないでよ!」
これじゃあ八つ当たりもいいところだ。バカだ。本当に私はバカ過ぎる。
河野に嫌われる。
呆れられちゃう……。
今の今まで強く掴んでいたはずの河野の腕の力が緩んだ。
目の前の河野の表情は固まったままだ。
ああ……。
言ってしまった。
あんなに知られたくないと思っていたのに。
こんなことを聞いて河野はどう思うのだろう。
きっと引いてる。
だから河野の腕の力も緩んだんだ……。
そう思ったら急に怖くなって、慌てて謝る弱くて情けない私。
河野を前にすれば、ただ河野が大好きなだけの女になっちゃう。
「あ、あの、ごめ……。泣いたりして、ごめ………ん。今日、せっかく、お祝いの日で……、徹に、笑顔で帰って……もらい、たかったのに、ごめ――」
いっぱいいっぱいになった私の途切れ途切れの言葉の途中で、強く抱き寄せられた。それは痛いほど。背中に回された河野の手が私の心まで届きそうなほどに強くぎゅっと掴む。
「――もう何も言わなくていい」
そして身体を少し離し苦しげな目をしてそう言ったかと思ったら、次の瞬間私の唇は河野に塞がれていた。
今までとは全然違う荒っぽいキスに、私は目を見開いたままでいた。