素直の向こうがわ【after story】


「……ん」


最初はただ押し付けられていただけの唇が、僅かな隙間をこじ開けるように深く侵入して来た。

こんなキス、河野がするなんて――。

驚いて私は肩をびくつかせる。
思わず身体を捩ろうとしても、河野に強く抱き締められてちっとも動くことが出来ない。

二人の間にこれまでにはなかった空気が流れる。
ただ嵐が過ぎ去るのを待つように目を硬く閉じたけれど、一向に解放される気配がない。
空気を吸おうと喘いでみても、その隙間すら埋められる。
酸欠になりそうで、そして目の前の河野が別人のようで、私は怖くなる。


怒ってる――?
それとも、私に対する憐れみ――?

そんなの、イヤ……。


「……や、やめ……て」


河野が顔の角度を変えてわずかに唇が離れた時、思わず零れ出た言葉。


「……やめない。おまえに分からせるまで、やめないよ」


唇と唇が触れそうなところでそう囁かれたかと思うと、また深く唇を奪われた。


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