素直の向こうがわ【after story】



玄関先で激しいまでに唇を絡ませて、身体に力が入らなくなる。
力が抜けたまま床に座り込む私を腕で支えるようにきつく抱きとめながら、キスを繰り返す。

私はただ、河野の胸にしがみついた。

河野の息遣いがすぐ耳に届く。
私からも勝手に甘い声が出て来て、河野にこんな声を聞かれるのが嫌で必死で押し止めようとするのに、それもままならない。


「……やっ……」


やっとのことで解放された唇。
恥ずかしいほどに息が乱れた。
自分が今どんな顔をしているのか分からなくて、顔を上げられない。

そんな私の手を取り、河野が自分の胸に当てた。


「分かる? 俺の心臓がどれだけ動いてるか」


押さえつけられた手に、その激しい鼓動が伝わって来る。


「おまえだけじゃないよ。むしろ、俺の方がおまえのこと想い過ぎてどうにかなりそうだよ」


聞いたことないほどに甘く擦れた声。
私は、自分の激しく動く胸と河野の鼓動が合わさって聞こえて、どこからともなく切なさが込み上げて来る。
その切なさで胸が苦しくて言葉が出て来ない。


「……もっと分からせるから。自分ばっかりなんて一瞬たりとも思わせないように」


キスの余韻が残ってまだ頭が完全に働かない私は、河野の手に引かれるままただその背中を見つめた。


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