素直の向こうがわ【after story】
「……好きだ」
口付けの合間に何度も囁かれる言葉。
「おまえ、キレイ過ぎて、どうにかなりそうだ……」
服を解かれながら零れる言葉。
露わになった肩に、腕に、手に、何度も口付けを落とされる。
何度も抱きしめてくれる。
手を握ってくれる。
こんな風に優しく抱かれたことなんてなくて、勝手に涙が零れて来る。
好きな人の肌は、考えられないほどにあったかかった。
肌を重ねた場所から、じわじわと温かくなって心までも満たしていく。
心が何よりも温かい。
愛しいと思う気持ちで一杯になる。
河野の手のひらが優しく慈しむように私に触れるから、そのたびに心が刺激されるのだ。
かつては自分をすり減らすだけの行為だった。
何も感じないように、ただ無になるだけの。
でも今は、大袈裟かもしれなけど、私の存在を肯定してくれているような、私でも大事にされていい人間なのかな、なんてそんなことを感じられる。
河野が私を大切に想ってくれてるってことが伝わって来て、幸せな気持ちで満たされた。
こんな感覚を味わったことがなくて、どうしようもなく感情が昂ぶる。
私も少しでも河野に触れていたくて、その広い背中に必死に腕を回す。
「文…、好きだ」
「徹……っ」
目尻から零れる涙を河野が唇で拭い取る。
優しい手のひらが私の頬を何度も撫でる。
この日を忘れたくない。
こんなにも幸せを感じたことなんて、これまでなかった。
それは、私にとって何もかも初めての経験だった。