素直の向こうがわ【after story】
無言のまま私を抱きしめる腕の力を強める。
私には河野の表情は分からない。
「……だから。やっぱりこうなると思ったんだ」
もごもごとした声が背中に響く。
「え?」
「これまでの俺じゃいられなくなるって。おまえを好きな気持ちが隠し切れなくなって、俺が崩壊しそう」
河野のキャラが崩壊するということですか?
それはそれで見てみたい気もするけど、どうなんだろう。
一人グルグルと考える。
でも、やっぱりどんな河野でもいい。
「今、ちょっと嫌だって思っただろ」
「思ってない。思ってないって!」
そう慌てて後ろを振り返ろうとしたら、そのまま頭と背中を引き寄せられて河野の胸にすっぽりと納まる。
抱き合った後にこんな風に抱きしめてもらえるって、本当に幸せ。
河野の素肌の胸は温かくてたまらない。
「……大事にするから」
頭上から聞こえる声。
「これまでだって十分大事にしてもらってる」
顔を上げると、河野の熱を帯びた目があった。
ああ、やっぱり……。
「一つお願いがある」
「なに?」
私は、不安のあまりつい言ってしまった。
「外で、眼鏡取らないで?」
想定になかったことなのか、河野がきょとんとした目で私を見つめ返している。