素直の向こうがわ【after story】
そろそろ梅雨に入りそうな六月中旬。
実験の授業の後、班のみんなとそのままの流れで学食へと向かった。
今日の河野君のメニューはカレーだ。
なんて、そんなことでニヤニヤしてしまう。
少し近寄りがたいけど親切で、尊敬してしまうほどに優秀で、実はものすっごくかっこいい河野君への想いが日に日に深まる。
少しでいいから近付きたい。
好きって気持ちは、欲張りになる。
昼食を終え、皆でそのまま次の授業がある実験棟へと向かった。
医学部の一年生なんて、みんなほぼ同じ授業を取っているのだ。
河野君、白衣もやっぱり似合うな。
実験続きのこの日は皆が白衣を着ていた。
食堂を出て、昼休みの学生でごった返しているキャンパス内をゆっくりと歩く。
その時、なんとなく隣を歩いていた河野君が言葉を発したことに気付いた。
「……ふみこ?」
「え?」
ふみこ?
ふみこって、なに?
驚いて河野君の顔を見上げたら――。
いつもの鉄壁な表情が崩れている。
私の知らない河野君の顔がそこにあった。