素直の向こうがわ【after story】


河野君の視線の先を恐る恐る見つめる。


「……どうしたんだ?」


長い髪の女の人と、ボブカットの女の人。
二人もこちらを見ていた。

気付くと、隣にいたはずの河野君はもう隣にはいなくて、その人のところに駆け寄っていた。


「なんで? なんで、こんなとこにいるんだ? おまえ、何も言ってなかっただろ?」


驚きながらも、その表情が緩んでいることに河野君は気付いているのだろうか。


「ごめん! 理香がどうしても行ってみたいって、あ、大学の友達なんだけど、私はやめようって何度も……」


髪の長い方の女の人が頬を赤らめながら河野君に必死に話してる。
その人を見つめる河野君の目は、眼鏡越しでも分かるくらい愛おしげで。


「あー、人のせいにして。文が本当は彼の白衣姿を見てみたいんだとかなんとか言ってたから、それに付き合ってあげたんじゃないよ」


ボブカットの方の女の人が間髪入れずにそう言うと、更に顔を赤くして「そんなこと言ってない!」って、怒っていた。


「ご挨拶遅れまして。文と同じ大学の仁科理香です」


でもそんな様子を気に留めることなく、満面の笑みで河野君を見上げている。


「ああ、どうも。河野です」

「え? なに? もしかして、河野の彼女?」


一緒にいた 同じ班の男の子たちがざわめき出す。

私は、ただ、そんなやり取りを呆然と見ていた。


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