素直の向こうがわ【after story】
「そうだよ」
河野君は当たり前のようにそう言った。
彼にとってまるで普遍的で絶対的なもののように。
『そうだよ』
そんな短い言葉なのに、私は致命傷のような衝撃を受けていた。
「え? マジで? うちの大学の人? そんな顔していつの間に?」
喚き立てる男の子の横で私は一人固まったまま。
「○○女子大の二年でーす。よろしくお願いします」
河野君の彼女さんではない方の女性が笑顔を振りまいていた。
「え? 女子大? 何で? 実は河野ってかなりのやり手?」
勝手に騒いでる外野の横で、河野君と彼女さんはもう既に二人の世界にいた。
「連絡くらいしろよ。大学広いんだ。そんな簡単に偶然でなんて会えないぞ」
「でも、会えたし。それに、邪魔になっちゃったら悪いから、こっそり来たの。そもそも、徹の白衣姿見たいなんて恥ずかしくて不純な動機、はっきり言えないしさ」
「なんだ、あれ、ホントのことだったんだ」
「あ……っ、いや、それは……」
あたふたとする彼女の頬を、河野君の指がそっと掠めたのを私は目に入れてしまった。
「バーカ。白衣だって毎日着てるわけでもないんだよ」
そんな風に喋る河野君も、そんな風に優しげな目で見つめる河野君も、私は初めて見た。
知らないよ。
そんな河野君、知らない――。