素直の向こうがわ【after story】
「――ね、川名さん」
突然男の子たちに声をかけられて慌てる。
「あ、うん。そう、そうだね」
話なんて全然聞いてなかったけど、焦りながらも相槌をうつ。
「どうしたの? さっきから黙って。それに顔色も悪くない?」
「大丈夫。そんなことないから」
私たちの声に気付いたのか河野君がこちらに振り向いた。
「川名さん、具合悪いの?」
「大丈夫ですか?」
私を覗き込む河野君の彼女さんは、とてもいい人そうで。
綺麗な髪が耳にかけられ、その肩から滑り落ちる。
ナチュラルメイクで決して華やかな服を着ているわけでもない。ジーンズに白いシャツをさらっと着ているだけの、本当にシンプルな出で立ち。
でも、とってもキラキラしていた。
この人が河野君の彼女。
河野君の大切な人。
自然とそんな表情になってしまう、愛しの人――。
「は、はい。すみません。大丈夫です!」
泣きたくなるのを必死で抑え、笑顔を返す。
「じゃあ、私たちこれで。足止めしてしまってすみません」
彼女さんが控えめに頭を下げた。
「後で連絡するから」
「うん」
河野君の視線は彼女さんのもの。
その後ろ姿さえも恋人を想う気持ちが溢れてる。
「なあ、河野。どうして女子大の子となんて付き合えるんだよ」
彼女たちが去ってから、待ってましたとばかりに河野君を質問攻めにしている。
聞きたくないのに、私の耳は言うことを聞かない。
「高三の時のクラスメイトだから」
淡々と答える河野君の表情はもういつものものに戻っていた。