素直の向こうがわ【after story】
俺は今、心の底から後悔している。
どうしてあんなことを口走ってしまったのか……。
それは、文子と電話で話した時のこと。
『今度のお休みどうする?』
『どうせ雨だろうしな。映画でも観に行く?』
『じゃあ、何か探しとこうかな。徹は何か観たいものある?』
『うーん……。俺は映画はあまり詳しくないからな……。その点、渉はあれが観たいこれが観たいって毎日うるさいよ。まあ、全部アニメだけど』
それは、世間話だ。ただの話題の一つだ。
そこに重要な論点は何一つなかった。
『そうなの? 渉君、映画観たいんだ。じゃあ、三人で行こうよ! どうせ私たち観たいもの特にないんだし、久しぶりに渉君にも会いたいし!』
いやいや、ちょっと待て。
どうしてそうなる。
そんなつもりで言ったのでは……。
文子の声が急に明るくなった。
その差で、文子の声がさっきまでなんとなく浮かない声だったことに気付く。
『ねえ、聞いてる? 渉君、嫌かな……』
無言になってしまった俺に、文子が不安そうな声を上げた。
嫌な訳ないだろう。
だって、渉は……。
文子のことが大好きなんだから。
『……いや、嫌ではないと思うよ』
『なに、そのつれない答え。じゃあ、渉君に聞いてみてくれる?』
『……分かった』
文子に気付かれないように溜息をついた。