素直の向こうがわ【after story】
「そうか」
「せっかく文子ちゃんが誘ってくれたのに、断ったら文子ちゃんが悲しむだろ。兄ちゃんこそ、来なくたっていいんだぜ」
窓を向いていた顔がこちらに向けられる。
確かに、渉が断ったら断ったで文子は寂しい思いをするだろう。
そんなことを考えている弟に、なんとも言えない気分になる。
それにしても、俺は来なくてもいいって……。
とんだませガキだ。
皆誰かと待ち合わせをしているのか、駅前の広場にはたくさんの人でごった返していた。
それでも、俺たち兄弟は、そんな人ごみの中から素早く彼女の姿を見つけ出す。
「文子」
「文子ちゃん!」
俺たち兄弟の揃った声に気付いた文子が、こちらに顔を向けてすぐに笑顔になった。
「渉くん! 今日は、来てくれてありがとね!」
そしてこちらに駆け寄って来る文子の元へ、すぐさま渉が走り出した。
「べ、別に、どうせ暇だったし」
かと思ったら、今度は照れ隠しだ。
その思考回路すべてが読み取れてしまって、またまた複雑な気分になる。
「じゃあ行こうか。まず、お昼ご飯食べる? 何か食べたいものある?」
心なしか、文子がいつもよりテンションが高い気がする。
「オレ、カレーライスがいい」
そんな二人のやり取りを後ろから眺める。
渉が精一杯背伸びをしながら文子の隣を歩いている。
ホント、無理しちゃって。
いろいろ心の中で悪態をつく大人げない俺には気付かないことにする。