素直の向こうがわ【after story】
でもだ――。
さすがに俺も、だんだんとイライラとして来た。
昼飯を食べ終えて、映画館へと行った。
渉が観たいと言っていた、アメリカのアニメーション映画。
俺は知らなかったが、どうやら最近人気らしい。
週末の午後ということも重なって、ほぼ満席だった。
俺と文子の間に座った渉は、時間の経過とともに気恥ずかしさもわだかまりも薄れて行くのか饒舌になっている。
俺が映画に詳しくないのをいいことに、映画が始まるまでの時間、ずっと文子に話し続けていた。
そのたびに、「すごいね」とか「よく知ってるね」とか文子が盛大に感心するものだから、渉はより上機嫌だ。
俺は仕方なくシートに背中を埋め、何も始まっていない黒いままの画面を眺めていた。
「徹は? 子供の頃、何のアニメが好きだった?」
すこし距離のあるところから文子が顔をのぞかせた。
その、今日も可愛くて思わず触れたくなる色白の顔。
「ああ、そうだな。猫型ロボットものかな」
「徹らしいね」
普通にしているときは、どちらかというときりっとした目。
でも笑顔になった瞬間にその目尻が下がる。
その違いにいつも胸がくすぐられる。
だから、俺は、文子の笑顔に弱い。