素直の向こうがわ【after story】
確かに、映画はアニメだと思って油断していたら結構感動する内容で良かった。
だけど、俺の頭はほとんど違うことで占められていて。
その手を引き寄せたい。
その頬に触れたい。
俺と二人の時にしか見せない顔を見たい。
これでも必死で抑え込んでいる。
だけど、それが前より難しくなっているのは間違いない。
俺の欲求は日に日に増して、俺を苦しめるから。
*
「今日は本当に楽しかった。付き合ってくれてありがとね。渉君」
文子が渉に視線を合わせて笑顔を向けた。
「オレも。ま、また、付き合ってやってもいいぜ」
俺はそんな渉の発言にぎょっとする。
そしてすかさず言葉を挟んだ。
「もういいからおまえは家に入れ。じゃあな」
自分の家の前で、俺は渉にそう言うとすぐに文子の手を掴んだ。
「え? 文子ちゃん帰るの?」
「子供との時間はもう終わり。この先は大人の時間なの」
俺はそう渉に言うと、後ろ髪引かれている文子の手をより強く掴んだ。
「じゃあ、またね」
最後まで後ろを振り返りながら文子が渉に手を振る。
そして渉が諦めて家の中に入ったのを見届けてから、文子が俺を見上げた。
「ちょ、ちょっと。そんなに急がないで」
この後どうしても二人だけの時間を作りたくて、ターミナル駅で別れようとした文子をここまで連れて来た。
そして、弟を家に送り届けて今に至る。
本当に、自分でもどうしようもないほどに、余裕がない。