素直の向こうがわ【after story】
文子の家からほど近いレストランに入り一緒に夕飯を食べる。
やっと俺だけに向けられるその笑顔。
のはずなのに――。
ん――?
「どうした? ここに入ってから溜息ばっかだけど」
渉と別れてから、文子はさっきまでの笑顔はどこへ行ったのか表情がなんとなく暗い。
「え? 溜息? 私、溜息ついてた?」
「ああ。何度も」
どうしたのだろうか。
急に不安になる。
俺と二人になった途端に溜息って、それって一体……。
「ごめん。自分じゃ気付いてないから」
そう言って誤魔化している笑顔も、完全には笑えていない。
増々、俺の心は動揺してくる。
何か、また知らず知らずのうちに傷付けるようなことをしただろうか。
あの、文子の家に行った時の泣き顔。
あれを思い出して不安になる。
「何か、あった?」
「……ううん。ない」
そう言いながらもその表情に先ほどまでの覇気がない。
そんな嘘、俺につきとおせるとでも思っているのだろうか。
「言ってみな。何もないなんて、そんなの嘘だってバレバレだよ」
俺がそう言うと、一瞬目を伏せた後、何かを決めたように俺の顔を正面から見つめて来た。
「あのさ……」