素直の向こうがわ【after story】
俺はできるだけ文が話しやすいように、優しく見つめ返した。
「徹の大学って、授業とか、グループで受けたりするの?」
大学の話?
それに何かあるのだろうか。
「え? まあ、他の学部とはちょっと違うかもな。グループ単位で動くことも多いけど。それごとに担当講師がいたりするし。でも、それがどうかした?」
俺は話の意図が見えなくて、文子の顔をうかがう。
「そっか。だから……」
その声はもう、ひとり言のように小さな声。
そして、何かを逡巡しているかのような表情を見せた後、顔を少し緊張させながら俺を見て来た。
「そのグループってもちろん女の子もいるよね。この間会った子とか……」
この間。
文子が突然大学にやって来た。
あれには本当に驚いた。
でも、それ以上に嬉しかった。
会えると思っていなかったのに会えたのだから。
いるはずのない人間がそこにいて、俺は一瞬現実かどうか分からなくなった。
「この間会った子? ああ、一緒にいた奴らはみんな同じ班なんだ。実験はいつも一緒にやってるから、自然と一緒にいる時間も長いかな。朝から晩までずっと一緒ってこともあるかも。文子のとこはそういうことはないか」
俺はありのままにありのままを答えた。
でも、見る見る文の顔は暗くなっていく。