素直の向こうがわ【after story】
「なんだよ。何を怒ってる?」
はっきりと言えばいいものを、どうしてこうも分からないような言い方をするのだろうか。
「怒ってなんかない。ただ、少しは私の気持ちも考えてって言ってるの」
「なんのこと? 何がそんなに気に入らないんだよ」
せっかく二人で過ごしているのに。
どうして、そんなに怒っているのか俺にはさっぱり分からなくてついきつい口調になってしまった。
「……自分でも、本当はこんな自分は嫌だよ。大きな心でどんと構えていたい。でも、どうしても気になるんだもん。気になるから聞いちゃうの。私よりずっと長い時間を一緒に過ごしてる他の女の子のことが気になるんだよ。それなのに、何度も『一緒、一緒』って言って、『親しい』とか馬鹿正直に答えちゃって。本当に、そういうとこ残酷……」
そう言うと、俯いてしまった。
それは、つまり……。
「もしかして、川名さんのことが心配だったのか……?」
今の今まで気付かなかった。
そんなこと、俺の頭に一切ないから。
本当に、どうしてそういつも突拍子もないことを言い出すのだろうか。
「それは……」
「じゃあ、嘘を言えば良かった? 『無関係の人だよ』って。『そんなに会うこともないよ』って?」
「それは、イヤ!」
俯いていた顔を咄嗟に上げて俺を見て来る。
ホント、言ってることが支離滅裂だって分かってるのかな。
でも、そんなことで顔を赤らめて怒ってしまう目の前の女が可愛くて仕方ない俺も、相当に支離滅裂。
俺にはおまえしか目に入らないのに。
毎日会えなくたって、触れることが出来なくたって、いつも心にいるのはおまえだけなのに。
今すぐ、抱きしめたい。
この腕に閉じ込めたい。
俺がどれほどまでに心乱されてるのか、いい加減分かってほしい。